米国で7,500ドルの連邦EV税額控除が2025年9月末に失効した。その影響は数字にはっきり表れている。2025年第3四半期に過去最高の310億ドルへ膨らんだ新車EVの消費支出は、直近2四半期でおよそ180億ドルへと急落した。約58%の落ち込みで、水準は2023年初頭並みに戻った計算だ。一方で中古EVは好調を保つ。米国EV市場の構造変化を整理する。
駆け込み需要の反動で新車EV支出が急落
まず起きたのは「駆け込み需要」だった。7,500ドルの控除が失効する前に買おうとする消費者が殺到し、2025年第3四半期のEV消費支出は過去最高の310億ドルに達した。ところが控除が消えた第4四半期と2026年第1四半期は、いずれも180億ドル前後にとどまった。ピークから約58%減であり、支出規模は2023年初頭の水準まで逆戻りした。
背景を補足すると、この7,500ドルの税額控除は、対象となるEVを買った消費者が受けられる連邦政府の優遇策だった。実質的な値引きとして機能し、EV普及を後押ししてきた。それが2025年9月末で終了した。さらに2025年12月には「One Big Beautiful Bill Act」により、消費者向けのクリーンテック優遇が広く廃止された。EV以外でも、上限なしで30%だった屋根置き太陽光や家庭用蓄電池の控除、年間2,000ドルまでのヒートポンプ向け控除などが打ち切られている。
新車EVの落ち込みは、市場全体の逆風とも重なる。2026年第1四半期の米国の新車販売は前年同期比で約7%減った。EVは2025年に新車販売の1割近くを占めるまで成長していただけに、優遇策の消失が需要に与えた打撃は小さくない。記事は「米国で新車EVは売れ行きが鈍く、世界の多くの地域よりもはるかに遅い。気候変動対策を訴える人々が期待したペースには届いていない」と指摘する。数値はクリーン投資モニター(Clean Investment Monitor、ロジウム・グループとMITのエネルギー環境政策研究センターの共同事業)による。
価格がこなれた中古EVは好調を維持
対照的に、中古EVは勢いを保っている。記事によれば中古EVは「飛ぶように売れ」ており、市場に出回る台数も増えている。理由のひとつが価格だ。いまや中古EVの価格は中古のガソリン車とほぼ同じ水準まで下がってきた。新車の控除が消えても、もともと割安になった中古車であれば、消費者が手を出しやすい。新車偏重だった優遇策の縮小が、かえって中古市場に需要を向かわせている構図がうかがえる。
ここで注意したいのは、失効したのが連邦の控除だという点だ。米国では連邦政府とは別に、州や自治体が独自にEV購入補助を設けている場合がある。本稿の元記事はそうした州・地方レベルの優遇や、自動車ローンの利子控除といった残る制度の詳細までは踏み込んでいない。したがって、消費者が受けられる支援がすべて消えたと受け取るのは正確ではない。ただ、全国一律で効いていた7,500ドルという大きな後押しが失われたインパクトは、支出の急減という形で明確に現れている。
補助金頼みの需要が問う日本への示唆
米国のEV市場は、優遇策に支えられた新車拡大の局面から、価格がこなれた中古車が主役の一つになる局面へと移りつつあるように見える。新車EVの失速は、補助金頼みだった需要のもろさを浮き彫りにした。一方で中古EVの健闘は、価格がガソリン車並みに下がれば、優遇策がなくてもEVが選ばれ得ることを示す。日本でもEV補助の行方が関心を集めるなか、政策が変わったときに市場がどう動くのか、米国の事例は示唆に富む。
参考:Canary Media(2026年7月6日)The tax credit cliff has hit EV sales hard

