テスラの完全自動運転(FSD)をめぐり、米連邦議会が再び動いた。民主党のエドワード・マーキー、リチャード・ブルメンソール両上院議員が、テスラはFSDの安全性を宣伝する際に「誤解を招く不完全な」統計を用いていると指摘し、米運輸省道路交通安全局(NHTSA)に書簡を送った。市場はこれを嫌気し、TSLA株は約2%下落した。テスラの安全性データの信頼性が、改めて問われている。
7月6日までに回答を要求
書簡が送られたのは6月16日。宛先はNHTSA長官のジョナサン・モリソン氏である。NHTSAは自動車の安全基準を所管する米国の連邦機関で、テスラの運転支援システムに対して複数の調査をすでに進めている。両議員は7月6日までに書面での回答を求めた。
「人間より10倍安全」という主張の何が問題か
問題の核心は、テスラが掲げる「FSDは人間のドライバーよりも最大10倍安全」という主張にある。両議員は、この比較の前提そのものが歪んでいると批判する。指摘されたのは主に次の点だ。
第一に、事故の深刻度を判定する基準が連邦標準と異なる点である。テスラは独自のしきい値を用いており、連邦基準と単純には比較できない。第二に、比較対象の問題がある。テスラは比較的新しい自社車両を、米国全体の「はるかに古い」車両群と並べて安全性を語っているという。新しい車ほど安全装備が充実しているのは当然であり、フェアな比較とは言いがたい。
第三に、事故のカウント方法だ。テスラはシステムが解除(ディスエンゲージ)されてから5秒以内に起きた事故のみを集計している。一方でNHTSAは30秒という基準を採用している。この差は大きい。自動運転システムが危険を察知して直前に制御を運転者へ戻した場合、その直後に起きた事故はテスラの集計から外れてしまう可能性があるからだ。
さらに両議員は、テスラが安全性データの大部分を「企業秘密」を理由に黒塗りにしている唯一の自動車メーカーである点も問題視した。透明性の欠如が、外部からの検証を難しくしているという主張である。
こうした懸念の背景には、NHTSAによる継続中の調査がある。2026年3月、NHTSAはFSDに関する調査の一つを「エンジニアリング解析」段階へと格上げした。これは調査がより踏み込んだ段階に入ったことを意味し、対象となる車両は320万台にのぼる。今回の書簡は、こうした規制当局の動きと連動した政治的な圧力とも受け取れる。
株価は2%安、投資家心理は冷静
市場の反応は冷静ながらも明確だった。TSLA株は火曜日の取引で約2%下落して引けた。年初来では8%安となっている。ただし、悪材料ばかりではない。ゴールドマン・サックスは同社の第2四半期の納車台数予想を、従来の40万5000台から42万台へと引き上げた。株式投資コミュニティのStocktwits上では、個人投資家のセンチメントは「中立」にとどまり、書き込み量も通常の水準を保っていた。今回のニュースが投資家心理を大きく揺さぶるまでには至っていない様子がうかがえる。
なお、本件についてテスラ側のコメントは記事には含まれていない。同社がどう反論するのか、現時点では明らかになっていない。
FSDをめぐる安全性データの議論は、自動運転技術が社会に普及していくうえで避けて通れないテーマである。「どれだけ安全か」を語るには、誰もが納得できる共通の物差しが欠かせない。テスラの集計手法が本当に妥当なのか、それとも規制当局や議会が求めるように見直しが必要なのか。7月6日の回答期限に向けて、NHTSAとテスラのやり取りが注目される。自動運転の信頼性は、技術そのものだけでなく、データの透明性によっても支えられることを、今回の一件は改めて示している。
参考:TSLA Stock Falls As Senators Raise Concerns Over Tesla's 'Misleading' FSD Safety Data(Stocktwits、2026年6月16日)

