米国の自動車安全規制当局が、テスラ車の「幻の急ブレーキ(phantom braking)」をめぐる調査を終了した。対象は2021〜2022年式のModel 3とModel Y、約69万5000台。2022年に始まったこの調査で、苦情はピーク時の314件から2026年上半期にはわずか3件へと激減していた。安全リスクは低いと判断され、正式に幕を閉じた。テスラにとっては数年越しの懸念材料がひとつ消えたことになる。
「幻の急ブレーキ」とは何だったのか
米運輸省道路交通安全局(NHTSA)は7月2日、この調査を終了したと明らかにした。対象となったのは2021〜2022年式のModel 3およびModel Y、合計およそ69万5000台である。調査自体は2022年に開始されていた。
問題となっていたのは「幻の急ブレーキ」と呼ばれる現象だ。これは、前方に障害物や車両がないにもかかわらず、運転支援システムが誤って危険を検知し、車が突然ブレーキをかけてしまう挙動を指す。ドライバーの意図とは無関係に減速が起こるため、高速走行中であれば後続車との追突リスクにつながりかねないとして懸念されてきた。この現象は英語圏で「ファントム・ブレーキング」と呼ばれ、テスラに限らず先進運転支援システム(ADAS)を搭載する車全般で議論の対象になってきたテーマである。
苦情の激減が調査終了の決め手に
NHTSAが調査を終了した最大の根拠は、苦情件数の推移にある。当初はピークで314件の苦情が寄せられていたが、2026年上半期にはわずか3件にまで減少していた。件数が大きく落ち込んだこと、そして深刻な安全上のリスクを示す十分な証拠が確認されなかったことから、当局は調査を続ける必要性は低いと結論づけた。
背景として、テスラの運転支援機能はソフトウェアの無線更新(OTAアップデート)を通じて随時改良される仕組みになっている。ハードウェアを交換しなくても、カメラやセンサーが捉えた情報の処理方法をソフト側で調整できる。苦情の急減の一因として、こうした継続的なソフトウェア改善が寄与した可能性が指摘される。ただし、NHTSAが調査終了の理由として個別の技術的改修を断定的に挙げたかどうかは、本稿執筆時点で確認できていない。
FSD調査とは別件、監督は続く
ここで押さえておきたいのは、今回終了した調査が、テスラの完全自動運転(FSD)機能をめぐる別の調査とは切り分けて考えるべき案件だという点である。テスラのFSDや車両の自律走行機能に関しては、NHTSAが別途、複数の調査を進めてきた経緯がある。今回の「幻の急ブレーキ」調査は、あくまで2021〜2022年式Model 3/Yの予期しない急制動という特定の挙動に焦点を当てたものであり、FSD関連の調査とは別件だ。したがって、今回の終了をもって、テスラに対する監督全体が緩んだと受け止めるのは正確ではない。
とはいえ、テスラにとって今回の判断が朗報であることは間違いない。数十万台規模の車両を対象とした調査が、リコールなどの是正措置を求められることなく閉じられたからだ。調査が長引けば、企業イメージやブランドへの信頼に影を落としかねない。今回のように苦情が実際に減少し、当局が安全リスクは低いと認めた形で決着したことは、テスラの運転支援システムに対する評価にとってプラスに働くだろう。
テスラの運転支援機能は、日本を含む世界中のユーザーが日常的に利用している。米国での規制当局の判断は、各国の消費者や規制の議論にも少なからず影響を与える。「幻の急ブレーキ」という現象自体が完全に消えたわけではないが、苦情の激減という具体的なデータをもとに調査が終了した意義は大きい。今後もOTAアップデートによる改良が続くなかで、テスラがどこまで運転支援の信頼性を高めていくのか、そして別途進むFSD関連の調査がどのような結論を迎えるのか、引き続き注目していきたい。
参考:CNBC(2026年7月2日)US closes 2022 probe into 695,000 Tesla vehicles over unexpected braking

