韓国でEV(電気自動車)の火災が相次ぎ、市民の不安が広がっている。駐車中の車両からの出火、大規模なリコール、消防当局が示す火災件数の増加――。こうした報道を前に「EVは本当に危険なのか」「これは韓国だけの問題なのか」という疑問が生じる。だが感情ではなく統計で見ると、事実は報道の印象とは異なる側面を見せる。本稿ではデータをもとに冷静に整理する。
仁川の火災とリコール、韓国で何が起きているか
まず韓国で何が起きているかを確認したい。仁川(インチョン)ケオムダン地区ワンギル洞では、駐車中のEVから出火し、周囲の車両9台に延焼した。2台が全焼、7台が損傷し、バッテリー起因が疑われ調査が続く。加えてヒョンデはEV 37,690台、キアは1,590台をリコールした。いずれもバッテリー管理システム(BMS)のソフト不具合で、過熱の検知が遅れる恐れがあるためだ。韓国消防庁によれば、バッテリー関連火災は2025年5月の49件から7月には67件へ増えている。
この一連の不安の発端は2024年8月にさかのぼる。インチョンの地下駐車場でメルセデスEQEが出火し、140台超が焼損、200世帯超が避難する事態となった。これを機に韓国では「EVフォビア」と呼ばれる警戒感が広がり、政府はバッテリー情報の開示義務、充電上限を概ね90%に抑える指針、認証制度などの対策を打ち出した。
統計が示す事実、EVはむしろ燃えにくい
では、EVは本当に燃えやすいのか。データは逆の事実を示す。米国の統計では、BEV(バッテリー式EV)の火災は10万台あたり約25件にとどまる。これに対しガソリン車は約1,500件で、実にEVの約60倍だ。むしろ最も多いのはハイブリッド車(HEV/PHEV)で、10万台あたり約3,475件に達する。スウェーデンの民間緊急事態庁(MSB)が2022年に示したデータでも、EV火災は61万1,000台中24件(0.004%)で、ガソリン・ディーゼル車の0.08%(約20倍)を大きく下回る。出火頻度という一点だけを見れば、EVはむしろ火災を起こしにくい乗り物である。
本当の課題は密閉空間での延焼
ただし、EVには固有の課題もある。リチウムイオン電池が起こす熱暴走火災は消火が難しく、大量の水を要し、鎮火後も再着火しうる。とりわけ地下駐車場や機械式立体駐車場のような密閉空間では、延焼が甚大化しやすい。韓国で問題が深刻に映る主因は、まさにここにある。高層マンションと地下・密閉型の駐車場が密集する居住環境が、一件の火災の被害を拡大させてしまうのだ。つまり「EVそのものの危険性」というより、社会構造と火災特性の組み合わせが問題を大きくしている。
この視点は日本にとっても他人事ではない。日本の都市部にも地下駐車場や立体駐車場は数多く、密閉空間での延焼リスクという論点は共通する。出火頻度が低いからといって密閉空間での備えを軽視してよいわけではない。韓国が導入したバッテリー情報の開示、充電上限の目安、認証制度といった枠組みは、対策を考えるうえで一つの参考になりうる。
結論として、EVを過度に恐れる必要はない。統計が示すとおり、出火頻度はガソリン車やハイブリッド車より明確に低い。一方で、消火の難しさと密閉空間での延焼リスク、そして電池の状態をめぐる透明性の確保は、韓国だけでなく世界が共有すべき課題である。恐怖でも楽観でもなく、事実に基づいた備えこそが求められている。
参考:EV fire destroys two cars, damages seven others in Incheon / Do electric vehicles really catch fire more?(出火率統計)

